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キャリア制度の功罪

 令和6年6月8日読売新聞社説

鹿児島県警の前最高幹部が県警トップの本部長が不祥事を隠蔽したと告発する異例の事態である。

鹿児島県警は5月、警察の内部文書を外部の第三者に漏洩したとして、前生活安全部長の本田尚志容疑者を逮捕した。本田容疑者は、今月5月に行われた勾留理由の開示手続きで、情報を漏らしたことを認めた上で警察官による犯罪行為を野川昭輝本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかったと述べた。
生活安全部長は、ノンキャリアの最高幹部の1人で警察庁出身のキャリアである本部長を支える立場だ。その生活安全部長が本部長を告発するとは前代未聞である。

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この社説を読んで、横山秀夫のは長編小説 64 (ロクヨン)を思い出しました。
文藝春秋 横山 秀夫 著
DVD NHKエンタープライズ 2015.4月~5月 NHK総合で放映 

                     今回 ドラマの詳細は忘れたので DVD Amazonにて購入
                     ピエール瀧 主演  好演 だったのに残念

県警本部長を始め警察庁出向者と地元自治体警察のノンキャリアとのせめぎ合いを描いた小説です。記憶が薄れていたため、もう一度読み返しましたが、あまりの長編小説で時間かかってしまいました。

地元警察の島である刑事部から、キャリアの支配領域である警務部の広報室広報官として赴任した、主人公三上警視の昭和64年に発生した未解決誘拐殺人事件を舞台にした
地元警察ノンキャリ組と警察庁キャリア組との間で揺れる苦悩を描いています。

幕開けは、ある妊婦が起こした交通事故 業務上過失致死の加害者匿名に対する県警記者クラブの広報官三上対する反発と県警本部長に対する抗議文提出、警察庁長官視察の記者会見ボイコットに始まりまます。
広報官の記者にたいする加害者匿名発表時、キャリアの警務部長から妊婦のために匿名にするように言われていたのであるが、実は県公安委員会委員の実の娘であるためであった。

記者クラブとの騒動の最中、未解決誘拐殺人事件の激励のために警察庁長官が視察に来るため、記者クラブとの手打ちを警務部長から迫られました。

未解決誘拐殺人事件には初動捜査に重大なミスがあり、それは隠蔽され、ノンキャリの最高位 歴代刑事部長の秘密の申し送り事項でした。

一方、警察庁長官の視察の本当の目的はノンキャリの指定席 刑事部長を警察庁キャリアの席に入れ替える事でした。

刑事から見れば馬鹿らしい仕事かもしれません。警察本来の仕事とは無縁。私もそう思っていました。ホシを上げるのは治安。娑婆は漁場。しかし今は違う。警察職員26万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は日の当たらない縁の下の仕事です。神の手を持っていない。それでも誇りを持っている。一人一人が、日々矜持を持って職務を果たさねば、こんな巨大な組織が回っていくはずがない。広報室には広報の矜持があります。刑事からはマスコミと通じていると揶揄されますが、恥じてはいません。部内の顔色を窺い、外と通じる窓を閉じることこそ、広報の恥

警察庁と地元自治体警察とのポジションの取り合い、不祥事の隠蔽、卑劣な犯人を許さないと言う社会正義の実現という使命感が、ないまぜとなった小説です。

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            北芝 健 著  basiliko   寺脇 研  著  アスコム   
   
警察機構の中で1番の出世頭は警察庁長官だ。もちろん言わずと知れたキャリアのポストだ。キャリアと言うのは上級国家公務員試験を通った国家公務員で毎年少人数が警察庁に入る。これに対してのノンキャリアは地方公務員各都道府県の警察に採用されている。キャリアが警察大学校終了後いきなり警部補となるのに対し、ノンキャリアは巡査、巡査部長を経てようやく警部補になるノンキャリアの最終到達ポストはせいぜい警視。最高に上り詰めても4万人に1人の地域部長(警視長)のみ。キャリアなら悪くても県警本部長は固い。ノンキャリアとキャリアの差は大きい。

よって小説64ではノンキャリアの最高峰である刑事部長の地位を守ろうとした意味が理解できます。
いかに社会的正義を体現する為なら一介の刑事でも良いとするノンキャリの警察官たちでも、目指すいただきが無くなってしまったのではいけません。
現場が1番と靴をすり減らして、頑固にホシあげる刑事はテレビドラマの世界でしょう。

それでは現場では、キャリア警察官とノンキャリ警察官が全て敵対関係にあるというと、そうではないようです。
経験を積んだ現場の警察官の捜査能力にはキャリア警察官といえどもとても及ばないと思います。
したがって、キャリア警察官は、優秀な刑事たちの力必要とし、また、現場の刑事たちは、将来の出世に期待をすることとなります。

ずいぶん以前に、松本清張のテレビドラマ 張り込み
主演のビートたけしが、キャリア警察官と一緒に張り込みをしている時、コンビニのおにぎりを買ってきてキャリア警察官にフィルムをはがし、海苔を上手に貼るやり方を教えていました。
当時、私はただの勤務医でしたが、コンビニのおにぎりのフィルムを剥がして苔を上手に貼ることができませんでした。
キャリアの世情に疎いことをコンビニのおにぎりののりの貼り方に託したとは、凄い演出だと当時感激した覚えがあります。

警察庁からキャリアを預かり守り、そして無傷で東京に送り返す。
それが地方警察の役割の1つなのだそうです。

そういえば、伝聞なので、真偽のほどは定かではありませんが、
息子の友人が、警部補に任官し、某所の盛り場に赴任。いざこざの鎮圧に屈強な警察官たちに守られて、出動したそうです。??

それでは、キャリア制度が問題なのでしょうか?

民間では今や実力主義がかなり浸透している。もちろん企業によっては差が大きいが、昔に比べて仕事ができれば若くても高い地位につけるようになっているだけでなく、現場への権限移譲もかなり進んでいるので、いちいち上の決済を仰がなくても、かなりのことを現場で決めることができる。年功序列などを採用していては、厳しい国際競争に負けてしまうだろう。
ところが、役所の世界では勤務した年数で、人事が決められ、ある程度の権限を持てるようになるには、課長補佐クラスになってから。そして課長になるまではいくら実力があっても、今は20年近くかかる。つまり人のためになる仕事をしたいと思って役所に入っても、現実に自分の裁量で、そういう仕事ができるようになるまでには、途方もない年月を費やさなければならないわけだ。
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            古賀 茂明 著 PHP新書  吉野 まほろ 著  新潮新書

この事は警察官僚のみならず、霞ヶ関の官僚の一般でもあります。
従って、いかに傑出した人物であっても、現場の警察官から一つ一つステップを踏んでいったら、定年までに時間が切れになってしまいます。
キャリアとノンキャリアはそもそも出発点ではなく、役割が違うのでしょう。
ただ、警察機構は、厳しい階級社会なのでその弊害が強く出てしまうのかもしれません。47都道府県もあるのですから、せめて1割位の県警本部長はノンキャリの就任ができると良いのですが。

どのような組織でも、不祥事といわれるものが存在し、隠蔽の誘惑にとらわれる事はあり得ることです。
今回の鹿児島県警の県警ナンバー3の不祥事暴露の事案は、任地で大過なく過ごすことが当たり前の評価で、それを守り立てることが現地での役割になっていることが問題の根底にあるような気がします。

少し気になる事は、正当事由があったのかもしれませんが、県警に批判的なメディアにガサいれをし、不祥事をリークした人間が特定されたことです。


by koutetukai | 2024-07-05 00:25